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2017年12月17日 (日)

リオデジャネイロでの         ドーピング問題

     こんばんわ!

お元気ですか!?

一週間のごぶさたになってしまいました。

NO.92

スポーツの平和創造機能を語り続ける

スポーツ弁護士のぶさん です。

2020年までに、

平和を愛する人すべてに読んでいただく

平和学としてのスポーツ法入門

(民事法研究会 以下 入門)の解説です。

 リオデジャネイロ オリンピック・パラリンピックで問題になっ、たロシアの組織的ドーピング問題です。

長くなりますが、当時の状況を知っていただくため、一挙掲載します。

ただし、

入門とは少し表現を変えています(入門137p~)。

第3章 

スポーツ法の現代的課題


第1 スポーツとドーピング

 ロシアと

 リオデジャネイロ・オリンピック
 この原稿を書いている今(2016年7月25日)、ロシアを巡る一連のドーピング問題で、ニュースが飛び込んできました。
 8月5日開催のリオ・オリンピックへのロシア選手の出場に関し、IOC(国際オリンピック委員会)は、

各競技のIF(国際競技団体)に判断を委ねるとの決定を行ったというのです。

1.発覚の端緒
 この問題は、

2014年12月、ドイツの公共放送番組で、ロシアの女子陸上800㍍のユリア・ステパノワ選手が2011年と12年のロシア室内選手権に出場したとき薬物を使用していたと認め、その時の状況や体制を告発したのです。
 彼女によると、検体の番号を伝えたところ、薬物を使用していたにも拘わらず陰性(不使用)と登録され、これは報告書の検査結果が改ざんされたためだと述べたのです。

 彼女は、コーチからWADA公認の「ロシアの検査機関の所長に3万ルーブル(8万5000円)払えば陽性にならない」とも言われました。また、コーチから「ビタミン剤のようなもの」といわれて薬物を受け取っていた事実や、「周囲の選手もみんなやっていたので、全く抵抗感はなかった」などと当時の状況を語っています。

彼女の告発を端緒に、WADAの独立委員会が調査を開始しました。
 一方で、2016年になってから、

アメリカに亡命したロシアの元検査機関所長が、ソチ冬季五輪(2014年)の際、選手に薬物投与をしたことを詳細に証言。それを承けてニューヨークタイムスが、出場ロシア選手数十人のドーピング疑惑を報道しました。

2.WADAの調査
 WADAは、2011年から2015年にかけ、ロシア政府がドーピングを主導していたと認定しました。具体的には、
①ドーピングをしたロシア選手の尿の検体が、事前に採取し保存していた陰性の尿とすり替えられた。
②関与したのはロシア連邦保安局(FSB)の職員らだった。
③方法は、扮装して、夜間、検査機関に忍び込み不正工作を行った。
④プーチン大統領が起用したスポーツ省の次官が、不正を行う対象選手を選択していた。
⑤背景としては、10年のバンクーバー冬季五輪でロシアの金メダルが3個と低迷したことから、組織的隠蔽システムが作られ実行された。
⑥そして、14年の自国ソチでの冬季オリンピックでは、金メダル13個と急増し、ロシアとしては国威発揚の目的を達した。
などとされました。

3.WADAの勧告
 この調査結果を踏まえ、WADAは、

選手参加の最終決定権を有するIOCに対し、リオオリンピック・パラリンピックの全競技で、ロシア選手の参加拒否を検討するように勧告しました。

4.IOCの決定
 IOCバッハ会長は、

この勧告を受け、リオ・オリンピックへのロシア選手の出場に関し、緊急理事会の結果、IOCとしては、各競技のIFに判断を委ねるとの決定を行いました。
 少し詳しく説明すると、ロシア選手の参加に関し、
①ロシア国内でのドーピング検査で陽性にならなかっただけでは、参加資格としては不十分であること。
②IFは、信頼できる国際的なドーピング検査のみを参考にすること。
③過去にドーピングで処分を受けた選手を派遣することはできない。既に処分期間を終えた選手も派遣できないこと。
④ロシア選手は、抜き打ちでの厳格なドーピング検査を受け入れる義務があること。
⑤告発したユリア・ステパノアは、過去にドーピングをしていたことがあり、選手としては受け入れられないこと。
といった内容です。
 IOCは、

上記のいくつかの条件は付けながらも、要するに各IFにその判断を委ねたのです。

5.IOCの決定への評価
 上記、IOCの決定に対しては、

IOCが自ら判断しなかったことを含め、賛否の意見があります。
(1)賛成意見

 ロシアの全選手が出場できないとの処分を科さなかったのは良かったという見解です。
 即ち、

ドーピングをしていたことが証明されていない選手にまで、連帯責任としてオリンピックから閉め出すのは反対との立場です。

 確かにロシアの国家組織としての違法行為には憤りを感じるが、だからといって不正とは無縁な無実の選手が連帯責任を負わされるのはフェアではない。潔白な選手にオリンピック出場の道を残すため、各IFに判断を委ねたのは正しい決定であるというものです。

(2)反対意見

 ロシア選手全員の参加を拒否すべきだったという見解です。
 即ち、

今回のロシアのドーピングは、スポーツに対する国家の犯罪である。この五輪史上最悪にして最大の国家犯罪といえる行為に、IOCはもっと毅然とした態度をとるべきであった。

 にもかかわらず、IOCがIFに判断を丸投げする形で委ねたのは、IOCがアンチ・ドーピングというスポーツの理念に基づく判断を避け逃げたと言うべきで、ロシアの政治権力に負けたというものです。

(3)ぼくは、賛成説です。

 即ち、

プーチン大統領がほくそ笑んでいるのを悔しいと思いつつ、それでも尚、今回のIOCの決定は他の決定に比べましだったと思います。
 確かに、

これほど大規模で、国家犯罪とも言うべき行為があったのですから、ロシア選手を一切閉め出すとの決定もあり得たでしょう。大国ロシアの不正への断固とした態度が今後のアンチ・ドーピング活動のためだとの主張も理解できます。そして、ロシア選手を全員排除したとしても、当時のソ連が不参加でも1984年のロスオリンピックが成功したと同様、今回のリオオリンピックが、ロシア不参加で失敗することはないと思います。
 しかし、

ドーピングの証明がない選手を、それがロシアの選手だからという理由で一律排除するのは、やはり公正(フェア)ではないと思うのです。それは悪しき連帯責任です。
 今回のIOC決定に賛成、またはやむを得なかったとする意見に、かって1980年のモスクワ・オリンピックのとき無念の不出場だったマラソン瀬古利彦さんや柔道山下泰裕さん、またIOC元副会長スキー猪谷千春さんなどオリンピック選手経験者が口を揃えておられるのが印象的です。
 今回のIOCの決定により、各IFがドーピング問題をそれぞれの競技の立場で自主的に考えることができたという意味でも、良かったと思います。
 くどいようですが、ロシアの悪行を許すものではありません。プーチン大統領の「WADAの調査や認定が、スポーツの政治利用・政治介入だ」との主張は全く論外です。
 そして、今回のIOC決定により、ドーピングを行っていた選手が、結果的に、リオ・オリンピックに参加することもあるでしょうし、ロシア選手の表彰式でブーイングが起こるかもしれません。でも、やむを得ないのです。

 ぼくが弁護士だから弁護士出身のバッハ会長を支持するわけではありません。でもやはり、ドーピングをやったと証明されていない選手は、参加を認められるのが公平だと思います。「個人の正義」と「連帯責任」を秤(はかり)にかけてとのバッハ会長の悩みは正当です。「推定無罪の原則」は、ここでも適用されるべきです。

 仮に、時間的な切迫の下、電話会議でしか理事会を招集できない今回の緊急事態を前提に、IOCがWADAの勧告に従い、全ロシア選手を閉め出すようなことになれば、それは私たちが非難している悪しき全体主義国家と同じです。

 オリンピック憲章は、「オリンピック競技が選手間の競争であり国家間の競争ではない」と規定しており、今回IOCは、観点は少し異なりますが、難民についても個人としての参加も認めていますから、その趣旨からも、個人の立場としてのロシア人は尊重されるべきです。
 そして本書の立場で考えれば、今回のロシアのケースに連帯責任を適用し排除するのは、日本国憲法13条「個人の尊重・個人の尊厳」の精神に反します。

6.ロシア事件が残したもの   
 今回のロシアドーピング事件で、ぼくは次のことを考え提案します。

(1)ロシアは勝利したのか

 ロシアが政治的に勝利したとの評価がありますが、ぼくは決してそうは思いません。

 逆に、大国ロシアを、武器を使わずにここまで追い込んだスポーツの底力に注目すべきだと思います。

 プーチン大統領はいろいろ言いましたが、アンチ・ドーピングという正義、公正(フェア)さを否定することはしませんでしたし、できませんでした。
 そして、ロシアを初めとする関係団体などの一連の行動を観察すれば、世界ドーピング防止規定やオリンピック憲章が、スポーツ法として実際に十分機能したことを意味しています。

(2)戦争的ナショナリズム?

 それにしても、

国家がここまで強引にドーピング行為を強行するその姿勢に驚きました。そして組織的にドーピングまでして国家の威信を保とうとする国家、その権力者・為政者の邪悪さを知りました。

 スポーツでの競争的ナショナリズムと言うより、邪悪で排外的な、戦争的ナショナリズムに近い例です。

 一方、自身の名声・名誉や経済的思いなどから、国家の圧力や誘導に屈してしまう人間の弱さも知りました。

(3)ドーピングに対する制裁

 ドーピングに対する制裁が現在のままでよいのかも考えさせられました。

 現在は一回目でいきなりの永久追放はなく、例えば2年間の出場停止などとされ段階的な処分になっているのですが、特に故意の場合、一度のドーピング違反でも、オリンピックや国際大会に出場できなくするなど、処分を厳しくすることも考えるべきかもしれません。

(4)内部告発者の保護・救済

 今回のロシア追及の原点になった、ユリア・ステパノワ選手に対する救済です。彼女自身ドーピング行為者ですから、その限度で非難はされますが、内部告発者として、救済できなかったでしょうか。IOCは、来賓としてオリンピックにゲストとして招待との考えのようですが、選手は競技場にいるのが筋で、どのような立場で使用したのかも検討し、選手としての救済の方法もあり得たと思います。

(5)WADAとIOCの地位とチェック・・・国際連合の活用

 もう一つ、議論されていませんが、WADAやIOCに対するチェックも考えるべきだということです。
 スポーツが平和な国際社会のために不可欠な基本的人権であり、スポーツの平和創造機能については、別のところで説明しました(入門268p~)。
 したがって、スポーツ団体としてのIOC、スポーツの公平さを支えるスポーツ関連団体としてのWADAは、これからも必須のスポーツ文化の必要装置です。
 そしてIOCはもちろんですが、WADAも今回の調査・報告で極めて強大な権力・権限を持っていることを世界に知らしめました。

 つまり、滅多なことでは頭を下げない大国ロシアが、IOCやWADAの評価や決定に従わざるを得なかったのです。

 ロシアはいろいろ反論したり恫喝めいたこともしましたが、基本的にはオリンピック・パラリンピックに参加するための弁解や弁明であり、評価や決定そのものを正面から否定するものではありませんでした。
 その意味では、今回WADAやIOCは礼賛の対象です。そんな団体になぜと思われるかもしれませんが、ぼくは、IOCやWADA、特にIOCについては、ガバナンス・コンプライアンスを充実化させる必要があると確信します。

 もっというと、IOCやWADAに対しても、その組織内容、運営、管理体制などについてそれが正当かどうかをチェックする姿勢や体制を準備しておく必要があるのです。力そして財産を持っている組織に対しては、権力が集中しない、そしてチェックできる体制、いわば見張るシステムが必要です。
 チェック体制としては、内部的なものと外部的なものがありますが、内部的なものとしては、国家統治の関係で良く言われる例えば三権分立のような制度を採り、一部に権力・権限が集中しないシステムにすることが大切です。
 外部的なものとしてぼくは、他でも述べましたが、国際連合を活用するシステムを構築すべきだと思います。

 つまり、巨大あるいは強大な国際的団体(典型はIOCやFIFA)に対し、きちんと対処できる可能性があるのは、正当な国際機関、具体的には国際連合だとぼくは思うのです。

(6)正義と権力
 もちろん、現実の国連が、往々にして大国のエゴにより不当に支配され左右されている現実は否定しません。ただ、国連憲章自体を遵守することは各国が宣明にして加盟しています。
 具体的な方策はありませんが、ヒントになる事例はあります。例えば、位相は異なりますが、この7月に判決のあった「国連海洋法条約」に基づく仲裁裁判所のような外部から紛争をチェックできる国際機関です。因みに中国は、「中国の主張する境界線には根拠がない」との敗訴判決にも従わないと公言しています。しかし、少なくとも客観的に見て道義的劣勢は否定しようがありません。あるべき地球の姿、人類の未来に対する国際社会のメッセージは少しずつ世界に浸透していきます。

 ぼくは、人間の理性を信じたいと思います。
 なお、上記に述べたチェック体制は、小なりといえども、わが国のJOCやJADAにも当てはまることを指摘しておきます。 

7.まとめ
 ドーピングについては、スポーツ基本法29条のところで説明しています。

ただ、スポーツの本質的価値とかかわり、現代社会において特に問題となる事柄なので、重複しますが、あえてもう一度、ドーピングが禁止される理由を掲げておきます。
(1)不公正(アンフェア)。
(2)副作用による健康への悪影響。
(3)社会的悪影響。特に青少年の教育上。
(4)無感動。良い成績が出ても観る側に感動を与えない(観る権利の侵害)。
 この4つが理由だとぼくは考えており、ドーピング違反はスポーツの自殺です。2020年の東京オリンピック・パラリンピックにのときに、今回のようなことが起こらないよう、啓発活動などを推進すべきです。

★なお、リオ・パラリンピックでロシアドーピング問題は割愛しました。

それでは、

今日の一曲

映画での山下達郎

クリスマス・イブ

です。

<おまけのひとことふたこと>

昨日(12月16日)、同志社大学で行われた、

第25回日本スポーツ法学会で、

次のタイトルとレジュメで、基調報告をさせてもらいました。

併せて、

1992年12月12日付の毎日と朝日の

ぼくがプロ野球で初めてヤクルト古田敦也選手の代理人になった新聞記事、

1999年3月30日の朝日「大阪オリンピックと国際平和主義」、

2003年11月26日の産経「大学でスポーツ法学を説く」、

の各記事を読んでもらいました。

アスリートの権利は如何に保護されるべきか
                                                   20171216
第25回日本スポーツ法学会                     於 同志社大学
                                   龍谷大学・関西大学・関西大学法科大学院各講師
                                                                          弁護士辻口信良
はじめに
・黎明期から展開期へ

1.アスリートとスポーツ法
(1)スポーツ振興法からスポーツ基本法へ
(2)基本的人権としてのスポーツ権

2.アスリートの権利保護のありかた

          ・・・公正(フェア)
(1)属性による保護
① 年齢
② 性別
③ 障がい者
④ 国籍
⑤ 地域
⑥ その他
(2)参加をめぐる保護
① 参加資格
② 選手選考
③ 出場機会の剥奪
④ その他

3.アスリートの個別的権利
(1)プライバシー
(2)パブリシティ                                           
(3)身分保障
(4)パワハラ・セクハラ
(5)事故補償

4.アスリートによる裁判と仲裁

5.アスリートとお金
(1)スポーツで、お金を○らう。
①)アマチュア
②プロフェッショナル
③ノンプロ(セミプロ)
(2)アスリートファースト
(3)スポーツ権の優越的地位

6.スポーツの平和創造機能と

 2020東京オリンピック・パラリンピック
(1)オリンピックの系譜

  ─────────────                           ──

(2)スポーツの平和創造機能
・「平和だからスポーツができる」から「スポーツが平和を創る」へ
(「平和学としてのスポーツ法入門」・・・民事法研究会  

ブログ・・・スポーツ弁護士のぶさん)

 今日も

最後まで読んでいただき、

本当にありがとうございました 

また、覗いてください。

詳しくは、

 2020年までに、

平和を愛する人必読の

平和学としてのスポーツ法入門

(2017年 民事法研究会  2800円+税)

を読んでくださいね。

2017(平成29)年12月17日  

        (NO,92)

スポーツ弁護士のぶさん こと

太陽法律事務所 弁護士辻口信良

 

住所 〒530-0047

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TEL 06-6361-8888

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太陽法律事務所ホームページ

おもろいもんみっつけた

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